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2006

スポーツは小説と意外と馴染む。試合が進行している最中にプレイヤーの内面で起きている様々なことや、観客には知りえないライフストーリーなど、実際のスポーツ観戦では決して満たされないスポーツの舞台裏を描き出すのに、小説はまさにうってつけだ。スポーツノンフィクションもそれらを補う役目は担っているものの、どうしても入ってしまう書き手の主観が必ずしも正解とは言えない、というもどかしさがある。その点小説世界なら問題ない。「純然たる過程と結果のカタルシス」を楽しむことができるというワケだ。
川端裕人氏がサッカー好きなのは、2002年の日韓ワールドカップ中に公開されていた氏のブログでも知っていたので、いつかはサッカーを素材にした小説を書いてくるだろうとは思っていたが、この『銀河のワールドカップ』はまさに川端氏カラー全開のサッカー小説だった。
主人公はうらぶれた元Jリーガー。現役を引退し一時は少年サッカーの指導者になったものの、ちょっとした誤解から指導者失格の烙印を押され、職にあぶれて公園で酔っぱらっているところに出会った天才肌のサッカー少年達と意気投合し、彼らのコーチを引き受けることになる。この少年達もそれぞれクセがあり、地域のジュニアチームからはみ出した存在だ。いわばはみ出し者同志のサクセスストーリーがこの作品、というワケだ。
『銀河のワールドカップ』というタイトルは、主人公が少年達に
「日本一を目指すなんて小さいこと言うなよ、どうせなら世界一、銀河一を目指してやれ!」
とはっぱをかけるシーンから来ているのだが、もうひとつ、いわゆる『銀河系軍団』と言われるレアル・マドリードにも引っかけている。当然ながらレアルの選手達(作中は偽名だが)に主人公も少年達も憧れているわけだが、憧れを憧れだけで終わらせない、子供達ならではの大胆さが、ラストの大カタルシスに収束して行く。「そんな子供いるわけねーだろ!」と言ってしまえばそれまでだが、こうした少年の夢を実現してしまうファンタジーは川端氏の得意とするところ。今回はスポーツ小説ならではの「純然たる過程と結果のカタルシス」として見事に結実している。久しぶりに、小説を読みながら涙があふれてしまった俺でした(恥)